佐々木長五郎さん 2019年5月25日(土) 「野幌時代窯」はJR野幌駅南口より徒歩13分の閑静な住宅街の中にありました。付近には大きなショッピングセンターもありましたが、佐々木さんの窯場周辺は本当に静かなところでした。 大きなガレージが窯場になっており、シャッターが降りているとここに工房があるとは気づかない佇まいでした。 工房の中で先ず目に飛び込んできたのは、大きなたたら板を作る機械が置かれており、ずいぶん使われた様子で、佐々木さんの陶芸活動を物語っていました。 工房の中は釉薬を入れた容器などが所狭しと置かれていましたが、自作の棚にきちんと整理されており、佐々木さんの几帳面な人柄が窺えました。 工房の奥に視線をやると、重そうで大きな土煉機がありました。 これも窯場の名前のように、時代を感じさせるずいぶん使い込まれた感じがしました。 この土煉機の使い道について尋ねると、工房の裏庭に案内されると、そこには大きな水槽の様なものが、三つ並んでが置いてありました。 中をのぞくと水が張ってあり、この中に作陶で出た粘土を入れて1年ほど寝かしておくそうです。説明によると、再生粘土をつくっているそうで、この再生粘土がものすごく使いやすい粘土に変化するとの事でした。 佐々木さんは本州の窯業地のように、粘土作りをしていることになり、ここでも佐々木さんのお人柄に触れることが出来ました。 北海道は寒さのため、窯業はうまくいかないと思っていましたが、独特の工夫と努力で陶芸活動を頑張っていることに、畏敬の念を感じました。 作陶に行き詰まりと、佐々木さんは必ず的確なヒントやアドバイスもらえるのも、こうした地道な努力のなせる技だと納得しました。 工房に5月の眩しい光がさしているところで、佐々木さんの陶芸に対する考え方を聞きたくて、いくつか質問してみました。 ○陶芸はいつごろ始められて、築窯はいつ頃でした。 ・37年前くらいですね。伯谷陶峰先生に師事しました。始めて3年後に窯を野幌に作りました。 ○粘土についてこだわりはありますか。 ・住んでいるところが野幌ですので、野幌の土をよく使います。新築現場で出た粘土をもらいに行ったりします。掘りたては青い色をしています。すぐに酸化して色が変わりますが、耐火温度が低く、1180度くらいですので、逆にこの特性を生かして1250度で焼くと、ぐにゃっとへたって面白い表現が出来ます。 ○粘土の再生について教えてください。 ・水槽が3つありまして、作成で失敗した粘土や北海道の粘土やくず粘土を水に溶かして、再生しています。白系、赤系、混合の3種に分けています。 ○作品の作るときのイメージはどのようにしていますか。 ・音楽の力を借りています。特にJAZZが好きなので、ノートを持ってjazz喫茶に行ってスケッチします。聞いているうちに、どんどんイメージがわいてきます。オブジェを作るときに向いていると、自分では思っています。歌謡曲では湯飲みかどんぶりですね。(笑) ○地域に何か貢献されていますか。 ・全然していません。還元焼成をやるときに炎を赤々とさせて、黒い煙を上げて近所から不安がられています。還元は人が寝静まったころにやっています。ひっそりと。 ○最近はどのようなものを作られていますか。 ・役に立たないものを作るのが楽しくて、幼稚園児のような発想で粘土と戯れています。 ○オブジェだと思うのですが、スケッチなどをして計画的に作るのですか。 ・一応はスケッチがあります。でも、作っているうちにどんどん変っていくことが多いですね。幼稚園の孫がいるのですが、見ているとしっちゃかめっちゃかで、何がどうなっていくかわからない、それが楽しい。私の思考と合っています。孫と精神的に同じですね。仲がいいです。 ○世界の陶芸事情詳しいと伺っておりますが。 ・そうではありませんが、世界中の陶芸家の作品の写真は3000枚位あります。イギリスの作家は面白い発想の方が多いですね。アフリカやアメリカなどの方の作品もとても興味深いです。伝統にとらわれない、北海道の作家の方々も個性的で素晴らしいと思います。 ○北海道陶芸作家協会の今後についてどう思いますか。 ・例えば、光や音や動きなどと組み合わせたり、鉄や木や皮などを取り入れたり、壁や天井を利用して3次元的に工夫したり、いろんな発想で幅広く取り組みたいですね。新しい会員の方がたくさん入ってきて、さらに幅の広い会になっていくことを祈念しています。 5月の太陽も西に傾いたころ、佐々木さんの陶芸に関する深い想いと広い知識に教えられながら、工房を後にしました。 ご多忙のところ快く対応していただき、感謝申し上げます。 (文責 稲垣勲平) |