窯場訪問レポート

光窯を訪問して

2015年3月北海道陶芸作家協会展に出展されて、愛澤先生は作品について下記のような文を掲載していました。

「板づくり」に取り組んでみて土から学んだこと

① 土は、生き物です。それは、作り手と土との呼吸がぴったりと合わないと形にならないからです。

② 土は、生き物です。それを生かすとは、人間の五感をフル回転しなくてはならないから。

③ 土は、生き物です。特に大切なことは、目で確かめ、皮膚で確かめてその時でないとできないことがあります。

④ 冬は、暖房で管理が大変です。夏の方が自然に乾燥ができていいです。

  いつも、作陶で失敗することは、土を生き物として見ていなかったのでは、と愛澤先生の言葉に深く共感し、一度ゆっくりお話を聞きたい。と思っていました。訪問のお願いをしたところ、快く引き受けてくださいました。
  ちょうど10月15日他の用事もあり、訪問いたしました。
初めは、千歳の市内と思っておりましたが、千歳市内とは、すこし離れた、追分ICの近くの千歳市立東小学校のグラウンドの横にありました。広々とした牧場・畑の中を車で走りながら、周りの景色の雄大さに圧倒されながら、無事着くことができました。
グラウンドの横には、愛澤先生のギャラリー(愛澤先生のお父様が建てたお家)と愛澤先生の工房(光窯)の2軒のみでした。
現在は、恵庭市・千歳市内・光窯工房の3箇所で教室を開き、23名の生徒がいます。今年は、特に窯場開設20年ということで、生徒さんたちが20周年記念祭(平成27年9月20日・21日)を開催してくれたそうです。窯場の清掃からギャラリーの整備、そして、展示会。
  20周年記念祭をとおして、いろいろ考えさせられました。と話してくれました。
平成8年退職を機に退職金を叩いて、工房を作ったけど、妻には「ごみばかり作って」といわれ、跡継ぎもいないし・・・。
  今、社会は、車社会で、感動が薄らいで、楽しようとする人がたくさんいる。素晴らしい感動は、五感をフル活動して、取り組んでいる姿から生まれる。そして、それが本来の姿ではないか。物を作る素晴らしさがそこにある。無駄なことではない。
  以前若いおばあちゃんとお孫さん(男の子)が教室にやってきました。お孫さんは、湯飲み茶碗を2つ、おばあちゃんは手びねりで素敵な花びんを作っていました。あとから聞いた話でしたが、この子は、なかなか人と関われず、悩んでいたとのことでした。
土にふれること。そのことが気持ちを安定させ2時間という長時間でも集中して夢中になれる。自然との関わりが人間の本来の姿なんだね。そのことが生命の躍動を支えている。

  そういえば、ご夫婦で教室に来た人もありましたね。60歳をこえる歳なのに、パソコンもやり、釉薬の色見本を作ってくれたり・・・。このご夫婦が息子さんのところへ行くと決めたとき、「教室に通い始めたときは、孫を事故で亡くしたときだった。何もする気力もなく、二人で陶芸を始めた。土と触れることが生きる支えだった。」と話してくれました。
そのとき、陶芸をすることが、意味のないことではない、生きる支えとなることに貢
献しているのだなぁと感じましたよ。
子どもから大人までの陶芸教室には、小学生から70代の受講生の皆さんが来ています。皆さんは土に触れて、思いの器やオブジェ風の造形体、中には、恐竜、怪獣といった妙技に至るまで巾が広いです。作っている間は面白くて、楽しくて無心の時間のようです。

  この外に夏と冬に親子陶芸の教室があります。はじめて粘土に触れる人達も土と遊び、慣れてくると自然に会話が出たり、制作に夢中になって、お互いに、みよう、みまねの無言のコミュニケーションがなりたっています。できた作品には不思議な力が込められているように思います。この教室は、やり始めてから十数年になりました。楽しんで頂いた人数は1000人は優に越えていると思います。

  今は、ごみの山から宝物を探していますよ。こめた気持ちを入れると生きてくるね。
喜びを感じたら、どんな苦しいことも乗り越えていく力が生まれてくる。自分で自分を鍛える素地を作っている。そして、集中する持続時間で成否がきまり、ここに喜びがあるからやっていける。陶芸は、形のないところから、形作る心の表現だから意味があり、無駄なことではない。

その後ギャラリーを見せていただきました。どの作品も周りの農地や牧場山の稜線をイメージした作品や人生の節目節目をオブジェで表現した作品が並んでいました。
「20周年は、一つの節目。すべてを忘れて、土に触れることが生きるエネルギーになる。物づくりが今の自分を支えている。」と話してくれました。「あと何年できるかねえ。周りで野菜を育てたり、焼き物を作り、人間として、五感を使う生き方を見出して生きたいと」としみじみと話してくれました。陶芸を通して、生きる基本を学び取ることができました。

(文責  梅田 厳章)